吃音問題と入学試験の面接

ペーパーテストは自信があるけれど、面接試験は実際に話さなければならないのでけっこう心配している受験生もいらっしゃるかと思います。下の4つの手紙は面接試験をうまくパスできるか悩んでいた中学3年生のために、四人の経験者がアドバイスのため書いたものです。

Mさんへ(小宮山 洋之)

初めまして。

僕は今、高校一年生です。僕もちょうど一年前、受験の時、面接を受けました。質問された事に対して、ちゃんと答える事が出来るだろうか、吃って何も言えなかったらどうしようかなど悩みました。中学校で校長先生と面接の練習をする機会が有り、その時も吃って言いたい事がなかなか言えず、本当に不安になりました。

しかし面接試験は無事に終わり、何度か吃ってしまった時も有りましたが、パスする事ができました。

吃音という理由だけで不合格にする学校はないと思います。

吃音というのは治すのがとても難しく、吃音の人に吃らずにちゃんとしゃべろと言っても、それは到底無理な事だと思います。だから面接の時に吃ったとしても慌てたり焦ったりせずに、落ち着いて話すようにすると良いと思います。緊張した雰囲気の中で落ち着く事は難しいかもしれませんが、自信を持って面接に臨んでください。面接だけでなく、これからの生活の中で吃音に悩み苦しむ事が有ると思います。でも後ろ向きには考えずに、前向きに考えてください。初めのうちはそのように考えるのは難しいかもしれません。僕も前向きに考えようと努力しているのですが、辛い思いをして落ち込んでしまう事が有ります。でも前向きな気持ちで頑張れば必ず克服できると思います。だからお互い頑張りましょう。

それでは試験頑張ってください。

さようなら。

Mさんへ(佐藤 隆治)

こんにちは。御久しぶりです。

高校入試の試験勉強頑張ってください。私もその当時は、一生懸命に、お正月も程々にして頑張った記憶が有ります。

さてMさんの面接試験についてですが、自分の名前がうまく言えるだろうか?等々不安だという事ですね。御気持ち良く分かります。私も中学3年生の時、公立高校と併願で私立高校も一応受けました。そして私立高校では筆記試験に加える事に面接試験も有りました。

筆記試験が終了し、さて翌日が面接試験だという日、受験した私立高校の指導指針のようなもの(4行くらいの文章で願書の冒頭に記されていたもの)を暗記しました。それ以外は特に準備はしませんでした。クラブ活動の事なんかひょっとして聞かれるかなとも思いましたが、聞かれたら聞かれたで聞かれた通りに、素直に答えれば良いだけだ、自分はそれなりに精一杯の活動はしたのだし、と考えていました。ひょっとして話す時に、吃ってしまったらどうしよう?と母に軽い気持ちで話しました。母は、そんなつまらない事考えない方が良い、と言ったので、私もその通りだろうと思いその気持ちについてはそのままにしておきました。

試験の当日、父がついて来てくれました(父母のうちどちらかが一緒に面接に臨むことになっていた)。順番が来て名前が呼ばれ、返事をして入室しました。指導指針について質問されるかなと準備してましたが、私には何の質問も特に有りませんでした。ただ父に、私立高校という事で公立よりも学費がかなり高いので、支払いきれるかとの質問のみでした。何だこれだけか?とやや拍子抜けの、面接試験というには、試験という言葉が少しオーバーなものでした。生徒や親本人と少し会っただけ、そして雰囲気を把握しただけと言うものでした。それはそうかもしれません。受験生の数は馬鹿にならないくらい多い訳ですし、逆にいくらか話しただけその人の本当の事が分かる訳でも有りません。面接はよっぽど服装態度等の悪い人のみを落とすという参考程度のものなのでしょう。筆記試験ができていて、後よほど態度が悪くない限り、普通の中学生らしい格好をしていさえすればそれで十分なのです。

筆記試験で全て決まると言って間違いないでしょう。頑張ってください。筆記試験の方を。まじめにこつこつ予習復習積み上げてください。逃げないで自分にごまかさないで、苦手なものほど、自分に逃げるなと言い聞かせながら、良く理解するようつとめてください。

仮に面接試験で、Mさんの名前を言うように言われた場合、私の時は名前なんか向こうが呼んでくれたくらいで、自分で名乗る事なんか無かったですが、もし自分の名前を名乗る場合は、臆せず、○○○○です、と言ってください。ちょっとつっかえて、え、え、えとなっても何の問題も有りません。少し緊張しただけなんですから。やや吃りやすく最初の音が言いにくいMさんなのだなということがすぐ面接官には分かるでしょう。今仮に話し始めにつかえやすいMさんだったとしても、そしてそれはきっと今だけの事なんでしょう。高校生活、あるいはさらに先の学生生活、ひいてはこれからの人生を送っていく中で、初めての人と接する時でも、今ほどは緊張せずに話せる時が来ると思います。話す事から逃げない限りは。私の送ってきた経験から、そう言いきる自信が有ります。面接官もそれなりの人生経験を積まれた方なわけです。人物を見る目は有るはずです。この今前にいる中学3年生の女の子が今どんな感じで、ここに座っていてこれからどんな高校生活を過ごしていくのか。少々つっかえる吃りの人を差別するといった狭い心の人はいないと思います。

どもりを治したいという気持ちが有るのは分かります。私にも当然ありました。

薬を飲むように治ればなんと楽な事でしょう。もう今はかなり廃れてきましたが、民間の怪しい矯正所で発声練習に励んでどもりを治そう、治そうとするのは止めた方が良いです。古今東西、数え切れないくらいの人が、空しい努力を繰り返して来ました。治そう治そうとあがけばあがくほど、どもりという亡霊はついて来てしまうのです。矯正所で治らず、言友会に訪れる人のなんと多い事か、今やこのような民間の矯正所はほとんど潰れてしまっていると言っていいです。

ではどうすればいいのか?治したいと言う気持ちが有るのはそれはそれで仕方が無い、それでいい。自分の正直な気持ちなのだから。ただ、自分の生活の中で、どもりだからと言って、話す場から逃げるような事は絶対しないよう、頑張ってみてください。絶対というのはいきなりむずかしいのなら、出来る限りとなるのかもしれませんが。当然恥ずかしかったりするでしょう。つっかえながら、物を注文したり、友達と話したりする訳ですから。でも逃げないでください。逃げたくて仕方が無い!という時もいっぱい有るでしょう。でも決して逃げないでください。それを続けていくうちに、Mさんの吃音は問題にならないようになっていくはずです。

Mさんは若い。私の言う事、わかりにくいかもしれません。でもこれからすばらしい人生が待っている事、間違い有りません。

中学生のころを振り返って(坂田 善政)

 今中学生のころを振り返ると、いくつかどもりに関する思い出が浮かんでく る。

  • 授業中に、答えのわかる問題を当てられたとき、どもるのがいやで「わかりま せん」と答えたこと。
  • 授業中に、教科書の朗読を指名されて、「どもりはしないか」とびくびくしな がら本を急いで読んだこと。
  • 授業中に、教科書の朗読が順番にまわってくるときには、自分の読むだろう分 担の場所を、何度も心の中で読む練習をしていたこと。また、自分の順番が近 づくにつれて、心臓の音がまわりの子に聞こえるのではないかと心配になるく らいドキドキしたこと。
  • 連絡網がまわってくると、いつも憂うつな気分になったこと。 ・友だちの家に遊びにいったとき、僕がどもるのを聞いて、その友だちの妹が 笑ったこと。それを聞いた友達が、「ほれは坂やんのくせなんやけん、しゃあ ないでないか!(それは坂田のくせなんだから、仕方ないだろう!)」と、妹 に言ってくれたこと。
  • 先輩にどもることをからかわれたこと。
  • 好きな女の子が髪を切ってきた日の朝、その子に会ったとき、「髪きったんや なぁ?(髪きったんだね?)」と言おうとして、「か」の音が出てこなかった ために、「散髪したんやなぁ?(散髪したんだね?)」と言ってしまい、笑わ れたこと。
  • 部活動(バレーボール)の県総体に出場することになったとき、その年は自分 達の市の代表が宣誓をすることになっていた-つまり僕が宣誓をすることになっ ていた-のだが、アベック出場することになっていた僕の中学校の女子のキャプ テンに、宣誓を代わりにしてもらったこと。

 あげていくと、まだまだ出てきそうだ。上のようなことがあったとき、僕は いつも「もどかしい」気持ちになった。「どもりさえなかったら・・・できるの に!」、「どもりさえなかったら・・・」。何度こんなことを心の中で繰り返し ただろう。
 でも、中学生のとき、どもりに関することで一番悩んだのは、上にあげたよう なことではなかった。僕が中学生のとき一番悩んだのは、高校入試の面接試験の ことだった。
 中学3年になって、自分の志望校を決めなければならなくなった。そのときの 自分の気持ちを端的に表せば、「不安」だった。面接試験のとき、自分はちゃん と話せるだろうか? 名前を言えるだろうか? 受験番号をいえるだろうか?
 僕は逃げようとした。入試に面接試験のない、工業高等専門学校を希望したの だ。 工業高等専門学校に進学したいということを親に話したとき、僕はてっきり普 通科の高校に進学するものと思っていた母は面食らったようだった。そして「ど うして?」ということをしつこくたずねた。
 思えばその時が、ものごころついて初めて自分のどもりのことを親に相談した ときだった。母は僕が自分のどもりにそんなに悩んでいたということを初めてしったといった。それはいわば当たり前だったかもしれない。なにせ、僕は家で も自分の言いやすいことばをつかって話していたから、家でもあまりどもっては いなかったから。それまでは、どもりのことは、僕だけの秘密だと思っていたの だから。
 その後、大学に進学したいと言う自分の希望と、普通科の高校に進学して欲し いと言う親の希望と、「面接は合否には関係ない」という当時の担任のうそか本 当かわからないようなアドバイスを考慮して、僕は普通科の高校を受験した。最終的に、面接試験に立ち向かう覚悟を決めたのだ。
 面接で少々吃っても合格できるようにと、筆記試験のための勉強には全力でと りくんだ。その成果が出たのか、山が当たったのかは分からないが、筆記試験は 自分なりに満足のいく出来だった。 次はいよいよ面接だ。受験番号5042番。今でもよく覚えている。何度この 番号を頭の中で繰り返したことだろう。いよいよ面接試験が行われる部屋に入っ た。5人の集団面接だ。一人目の子が受験番号と名前を言った。二人目の子 も。そしてぼくの番に…。 そのあと不自然な沈黙が続いた・・・。時間にすると3,4秒だっただろうか。僕にはとてつもなく長い時間に感じた。どうしても5042の“ご”が出てこ ない。その数秒のうちにぼくの考えた非常手段は、頭に“受験番号”という枕詞を つけることだった。この枕詞のおかげで、ぼくは自分の受験番号と名前を言うこ とができた。それからあとの質問はよく覚えていない。はじめの受験番号を言う ことに全エネルギーを使い切ってしまったのだ。 面接が終わった後、なぜかすがすがしい感じがしたのをよく覚えている。やれ るだけのことはやったし、これで落ちていたら仕方ない。心からそう思った。そ して合格発表の日。結果は合格。うれしかった。
 今この文を書いていて思うことは、「あの時逃げないでよかった」ということ だ。中学生のころの自分の勇気に感謝したいと思う。

Mさんへ(大山 哲史)

私は高校受験の時と就職の時と、二回面接を受けました。その時の経験から気付いた(?)事を取り止めも無く書きます。

  • 高校の時は面接の前に、待合室でアンケート用紙が配られ自分の趣味や特技、得意な科目などを書かされました。ここには遠慮せずにありったけ書いた方が良いと私は思います。なぜなら面接ではなるべく自分の得意な分野の話をした方が、話がスムーズに行き、自分も自信を持って話せるからです。話す内容も自分の得意な方に話を持っていった方が得です。平板な内容の話をするより、印象にも残るのではないでしょうか?もし「自分の性格の長所、短所」なんて欄が有ったら、短所(になってしまうと思うが……)のところに、「少しあがりやすく、どもってしまうところ」などとちょっと書いてみたらどうでしょうか?それをきっかけにどもりの話ができ、気分的に楽になるかもしれません、どもらずに面接を終えた方が良いのかもしれませんが、「じゃあ、今日は結構緊張しているの? 」なんて言葉をかけてくれるかもしれません。
  • 私は面接の部屋に入って「○○○○番(受験番号)、◇◇◇◇です。」と言うところで、名前のところでつっかえてしまって目の前が真っ白になって焦ってしまいました。気が動転すると思いますが、ここで「ああーもうだめだ。最初から失敗しちゃった。」と思ってはいけません。高校の面接ではどもることをマイナスの要因として評価する事はしないのではないかと思います。それより挨拶の仕方とか、ドアの締め方、椅子の座り方とかちょっと出てしまうしぐさの方を見ているのではないでしょうか?そこでめまいがしてしまってそちらの方をおろそかにしてはいけません。
  • 面接官はたいてい3人くらいです、一人は印象を用紙にチェックする係、残り二人が質問してくる、というパターンです。 そしてたいてい一人は突っ込み役(?)となって、きつい言葉を返してきたり、「そんなのじゃだめだよ。」なんて言ったりしますが、それは「わざとやっている」のです。わざと否定的な言葉を返して相手がどう処理してくるかを見ているのです。(それはそうでしょう?そんな5分くらいの面接で怒られたり嫌われたりしてたまりますか?5分くらいで人間なんてわかりっこないのです。5分くらい話しただけで面接官が相手に怒るなんて人間に対して失礼です。)そういう質問の形式なのだと思った方が良いです。でも否定的な言葉を返されると自分に自信が無くなってどもってしまうことが多い(?)ですよね。
  • 受け答えの最後の語尾ははっきりと残した方が良いと思います。「~と思うんですけど……」と消え入るような答え方はあまり好印象を与えない(?)と思います。(逆にあまりゴーマンなのも好ましくないけど……)途中はいくらどもっても構わないと思う。逆に必死で答えようとしている印象を面接官に残すのではないでしょうか?面接官は自分が思うほど「ことば」の発せられる形には注目していないのです。(といっても自分も高校の頃はそちらばかり気にしていたけど、社会に出てみると結構吃りは好印象を与える事も有る、とつくづく知りました。)どもりで自信を無くすより話の内容に自信を持ち、最後ははっきりと述べた方が良いと思います。「どもりを調べるための面接」ではないのです。
  • 高校の面接の時、自分が眼鏡をかけている理由を問われ、頭の中では「えーと受験勉強してきたためだと思います。」と答えようと考えていたところ、口からはつい、「テレビの見過ぎじゃないですか? 」と答えてしまいました。面接官はあっけに取られ、笑い出して(3人とも)しまいました。「ありゃーしまった」と思ったのですが、それから雰囲気が和やかになりスムーズに話せました。ちょっと強引ですが、「笑わせた方が勝ち」です。そんな余裕はない(?)と思いますが、最初に一発冗談を言って笑わせたら如何でしょうか?(といっても本人の持つキャラクター(?)によりますが。)
  • 最後に「どうしても貴校に入りたいんです」という気持ちを伝える事です。結局、面接というのはいろいろと細かい事を聞かれますが、それは飾りに過ぎず、最後はそこだと思いますよ。

本当に取り止めも無く書いてしまいました。今から思えば面接なんてたいした事じゃ有りません。笑えますよ。人間の中にはもっともっと深いものがたくさん有るのです。(なんてね。)

体には気を付けて受験頑張ってくださいね。

PS. 私は高校受験の日(2/18)大雪が降り、下り坂で滑って転びました、それでも受かったのだ!

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